KaRMo - 鴨川放射能モニタリングプロジェクト
Kamogawa Radiation Monitoring Project powered by L.P. Ina-Kappe
放射能のおはなし
9.主な放射線被ばくは 大気から・吸い込む・食べる の3パターン
さて、いよいよ本題へと入ってきました。
だいぶ端折って説明してきましたが、放射能・放射線の基礎知識を身につけるだけでも、最低限、ここまでのような説明が必要なのです。
おそらくすでに混乱していると思いますので、次のことだけに注目して読み進めてください。

放射能がどのくらい存在していて、それらが出す放射線がどの程度影響を与えるのか。
シーベルト(Sv)という単位で判断する。(ミリシーベルトやマイクロシーベルトを主に使う)

放射線を受けてしまう(被ばくする)のはさまざまな状況が考えられますが、主に次の3パターンを考えれば良いでしょう。

(1) 大気から直接受ける(=外部被ばく)
空気中には普段から自然界の放射性物質が漂っています。
さらに、原発事故により放出された放射性物質もあわせて漂っています。
その放射性物質から発射される放射線を我々は受けているのです。
体の外から受けているので外部被ばくといいます。

(2) 吸い込んで体内で受ける(=内部被ばく)
空気中に漂っている放射性物質や、風などで吹き上げられた放射性物質を吸い込むと、体内で放射線を受けてしまいます。
体の中から受けているので内部被ばくといいます。

(3) 食べて体内で受ける(=内部被ばく) 放射性物質を含んでいる食品を食べることで、体内で放射線を受けてしまいます。
こちらも内部被ばくの一つです。

10.厄介なのは内部被ばく(吸い込む・食べる)
外部被ばくと内部被ばく、注意すべきは内部被ばくです。
なぜなら、体内に取り込まれた放射性物質は長い時間体内に居座ってしまうからです。

例えば、100の強さの放射能に1時間だけ遭遇し体の外から影響を受ける場合と、1の強さの放射能を体内に取り込んでしまい1ヵ月体の中から影響を受ける場合を考えてみましょう。どちらが危ないでしょうか。
答えは一目瞭然、いくら強さが弱くても、体の中に1ヵ月も居座られてしまっては結果受ける強さはたいへん大きくなってしまいます。
さらに言えば、体の外から受ける放射線は衣服や皮膚などが保護してくれますが、体の中から受ける放射線は細胞にもろに影響を受けることになってしまいます。

内部被ばくに注意! = 吸い込む、食べる
11.鴨川の状況、まずは大気から(外部被ばく)
鴨川の状況を考えてみよう。

千葉県放射線技師会に所属している亀田病院の技師が毎朝有志で大気の放射線の強さを測って公表してくれています。
その情報によれば、およそ0.05マイクロシーベルト/時(0.00005ミリシーベルト/時)で現在は推移しています。
事故前の鴨川の放射線の強さは0.02~0.04マイクロシーベルト/時(0.00002~0.00004ミリシーベルト/時)であると予想されるので、多少高めではありますが、県北や原発に近い地域と比べるとほぼ平常時に戻っていると言って良いでしょう。

この値は1時間あたりの放射線の強さであるので、これを1年間に計算してみます。
0.05マイクロシーベルト/時×24時間×365日 =   438マイクロシーベルト
                                          = 0.438ミリシーベルト
つまり、現在の鴨川の状況が1年間続くとして、大気から受ける放射線の強さは1年間で438マイクロシーベルト(0.438ミリシーベルト)であり、世界平均から見ても全く問題のない値です。

12.鴨川の状況、吸い込んで体内で受ける放射線の強さは?(内部被ばく)
次に放射性物質を吸い込んで体の中から受けてしまう(内部被ばく)放射線の強さを考えてみますが、現段階においては大気の放射線の強さがほぼ平常時に戻ってきており、これは空気中に原発事故による放射性物質がほとんど漂っていないことを意味しています。
したがって、ここではあえて考慮しなくて大丈夫でしょう。
※ 事故直後に受けた強さについては後で触れます。

13.鴨川の状況、食べて体内で受ける放射線の強さは?(内部被ばく)
最後に放射性物質を含む食品を食べてしまい体の中から受けてしまう(内部被ばく)放射線の強さですが、現在政府はセシウム134・137については次のような暫定基準値を設定しています。

水道水・乳製品・飲料品 200ベクレル/リットル(Bq/L)
野菜・穀物・肉類・魚介類・その他 500ベクレル/キログラム(Bq/kg)

つまり、セシウム134・137をあわせて、飲むものは1リットルあたり200ベクレルまで、食べるものは1キログラムあたり500ベクレルまでならOKというわけです。
では、この値はなにを意味するのでしょう。
ベクレルをシーベルトに換算できる計算ツールを使って計算してみます。

○セシウム137を200ベクレル/リットル含む水を2リットル1回飲んだ。
 → 成人 年間0.005~0.026ミリシーベルト を体内から受ける
   幼児 年間0.004~0.052ミリシーベルト を体内から受ける
   乳児 年間0.008~0.128ミリシーベルト を体内から受ける
○セシウム137を500ベクレル/キログラム含む食品を1キログラム食べた。
 → 成人 年間0.007~0.032ミリシーベルト を体内から受ける
   幼児 年間0.005~0.065ミリシーベルト を体内から受ける
   乳児 年間0.011~0.160ミリシーベルト を体内から受ける

*最小値:ICRP(国際放射線防護委員会) の係数をつかった場合
 最大値:ECRR(欧州放射線リスク委員会)の係数をつかった場合
これをさきほどの鴨川で大気から受ける年間の強さ=0.438ミリシーベルトと比較してみると、なんとなくその度合いがわかってきます。

ただし、これは1回だけ飲んだ、食べたという前提なので、これが毎日続くとなれば、少し考えものです。
特に乳幼児、子どもは放射線の影響を受けやすいため、成人よりも数値は大きくなります。
したがって、同じ食品でも乳幼児、子どもは気をつけてあげる必要があります。

なお、政府の設定している暫定基準値は原発事故が数ヶ月程度で収束することを前提として設定されたものと言われており、さすがに原発事故の直後で通常時とは違うので短期間の摂取であればこの程度の量なら大丈夫だろう、という考えのもと、設けられた値と言えます。
したがって、原発事故が長引き、さらに長期間にわたる摂取、子どもたちへの影響というものを考えると、基準値はより厳しい値に改めるべきでしょう。
当プロジェクトでは 100ベクレル/キログラム を一つの目安として提案しています。

ちなみに鴨川市については3月下旬の検査開始以降、水道水は全て不検出です。
また、先日天津小湊センターの近くにある井戸水を検査したところ、こちらも不検出(検出限界 1ベクレル/リットル)でした。
したがって、水道水については心配はいらなそうです。

ということは、気をつけるべきは食品と言えるでしょう。

>>> かもナビの計算ツール

14.シーベルト(Sv)を足し算して、あとは年間どれくらいまで許すか。
放射能、放射線から身を守るために、一つの目安として考えるのが1年間に受ける放射線の強さです。
これはここまで計算してきたものを足し合わせれば良いわけです。
あとはその値がどうなのか、判断することになります。

これにはさまざまな考え方があります。
国際的には自然以外に受ける放射線の強さの目安として1年間あたり1ミリシーベルトを上限として設定している場合が多いですが、今回の事故後、政府は原発周辺の住民に20ミリシーベルトという20倍の値を適用し、物議を醸しました。(それなりの根拠はありますが…)

実は事故が起こる2年前の2009年に原子力安全委員会は今回のような深刻な原子力事故が起こった場合にどのような考えで放射能、放射線から身を守り、食品などを規制していくか、検討していました。
それによると以下の方針が掲げられています。

事故によって被ばくする放射線の強さを
  事故1年目 年間5ミリシーベルト
  2年目以降 年間1ミリシーベルト
として、制限する。

つまり、事故後はどうしても余計に受けてしまうので、年間5ミリシーベルトまでは許容しましょう。ただ、2年目以降は世界で広く使われている年間1ミリシーベルトの基準に戻しましょう、ということです。
この検討は事故前になされていたこともあり、WHO(国連世界保健機構)やFAO(国際連合食糧農業機関)のデータを参考にしていることから、比較的フェアな目安と考えられます。

せっかくなので、事故後1年目の年間5ミリシーベルトを使い、今年を考えてみましょう。
ここでは次の値を足し合わせることに年間に受ける放射線の強さを算出することにします。

大気から受ける放射線の強さ(外部被ばく) + 放射性物質を吸い込み体内で受ける放射線の強さ(内部被ばく) + 放射性物質を含む食品を食べたことで体内で受ける放射線の強さ(内部被ばく)
      ↓
(もっとわかりやすく記して)
大気 + 吸入 + 食品

(1) 大気から受ける放射線の強さ(外部被ばく)
これについては現在の0.05マイクロシーベルト/時という値から先ほど算出しましたが、実際には事故後3月のしばらくの間、鴨川でも高い状態が続きました。
さまざまなデータを調べると、高めに見積もって、0.1マイクロシーベルト/時が1ヵ月続いたと見れば良さそうです。

ただし、ここで求める強さはあくまでも原発事故によって余分に受ける強さなので、普段の強さ(0.02~0.04マイクロシーベルト/時)は除いて考える必要があります。
それを考慮して計算すると以下のようになります。

[事故後1ヵ月]
(0.1 -0.02)マイクロシーベルト/時×24時間× 30日 =   57.6マイクロシーベルト
                                                  = 0.0576ミリシーベルト
[残り11ヶ月]
(0.05-0.02)マイクロシーベルト/時×24時間×335日 =  241.2マイクロシーベルト
                                                  = 0.2412ミリシーベルト
[合計] 約0.3ミリシーベルト

(2) 放射性物質を吸い込み体内で受ける放射線の強さ(内部被ばく)
放射性物質を吸い込み体内で受ける放射線の強さですが、事故後1~2ヶ月は放射性物質が大気中を漂っていて、それを吸い込み、私たちは多かれ少なかれ、体内で放射線を受けていました。
ただし、残念ながら、鴨川でどの程度の放射性物質が漂っていたのか、調べたデータはありません。
したがって、正確に判断することはできないのですが、東京都産業労働局で大気中を漂う放射性物質の測定結果を毎日公表しています。
このデータを使うことで、鴨川での被ばく量もおおよそ判断することができます。

詳しくは代表・岡野の日記にて検証していますので、結果だけを記すと以下の通りです。

福島原発事故後1年目の吸入による年間の内部被ばく量
成人 0.8ミリシーベルト
幼児 1.1ミリシーベルト
乳児 0.7ミリシーベルト

>>> 東京都産業労働局 都内における大気浮遊塵中の核反応生成物の測定結果について
>>> 鴨川市における被曝許容量と目安値の一考察(代表・岡野の日記)


(3) 放射性物質を含む食品を食べたことで体内で受ける放射線の強さ(内部被ばく)
さて、残すは食品を食べることにより、体内で受ける放射線の強さですが、これは人それぞれまちまちです。
事故後、神経を使いながら食事を摂っていた人の被ばく量は少ないでしょうし、逆に気にせず食事を摂っていた人の中にはある程度被ばくした人もいるかもしれません。

目安として、次の想定で3~9月までの被ばく量を計算してみます。

○放射性ヨウ素131については基準値ギリギリ(2000Bq/kg)の食品を1日の摂取量の4分の1で摂取した。残りの食品はクリアと想定。これを30日間続けた。
○放射性セシウム134・137については存在比を1:1として、基準値(500Bq/kgを2分の1する)ギリギリの食品を1日の摂取量の4分の1で摂取した。残りの食品はクリアと想定。これを3~9月の210日間続けた。
○1日の食物摂取重量は成人1600g、幼児1000g、乳児700gと想定する。

すると、次のような結果が得られます。
                 成人          幼児          乳児
ヨウ素131    0.528~2.640  1.500~3.300  1.890~5.775
セシウム134  0.399~0.420  0.171~0.525  0.239~0.919
セシウム137  0.273~1.365  0.127~1.706  0.193~2.940
───────────────────────────
合計         1.200~4.425  1.798~5.531  2.322~9.634
(単位:ミリシーベルト mSv)

*最小値:ICRP(国際放射線防護委員会) の係数をつかった場合
 最大値:ECRR(欧州放射線リスク委員会)の係数をつかった場合
これを見ればわかるように、ECRR(欧州放射線リスク委員会)の係数を使った場合はかなり値が上がってしまい、乳幼児においては食品の摂取だけですでに1年目目安の年間5ミリシーベルトを超えてしまっています。
もう一つわかることは放射性ヨウ素131の影響が大きいということです。これはICRP(国際放射線防護委員会)の係数を使った計算でも、ECRR(欧州放射線リスク委員会)の係数を使った計算でも明らかで、被ばく量全体の半分~大半を締めています。
結果論でありますが、やはり放射性ヨウ素については特に乳幼児に厳重な対応をしなければなりませんでした。
福島原発周辺をはじめ、放射性ヨウ素131を多く被ばくしたと思われる子どもたちの今後がたいへん心配されるところです。放射性ヨウ素の影響が出やすい甲状腺など、長期間にわたる健康管理をしっかりやっていかねばなりません。

なお、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は放射線の影響は極めて大きく評価する団体でもあります。
したがって、事故後の状況においてECRR(欧州放射線リスク委員会)の勧告を適用してしまうと日常生活を送ることがたいへん難しくなってきます。
ここでは、国際的にも広く使われている、ICRP(国際放射線防護委員会)の係数を使って算出された値を用いて検証を進めていくことにします。

(4) 全て足してみると…
(1) 大気・(2) 吸入・(3) 3~9月の食品 の値を全て足してみると以下の通りとなります。

                成人    幼児    乳児
(1) 大気         0.3     0.3     0.3
(2) 吸入         0.8     1.1     0.7
(3) 食品         1.2     1.8     2.3
───────────────────
合計             2.3     3.2     3.3
年間5mSvまで   2.7     1.8     1.7
(単位:ミリシーベルト mSv)
これを見るとわかるように、事故後1年目の目標である年間5ミリシーベルト以内を考えると、成人 2.7ミリシーベルト、幼児 1.8ミリシーベルト、乳児 1.7ミリシーベルトの許容が残っています。
つまり、これを10~2月に食品を摂ることにより被ばくする強さの目安に考えれば良いわけです。
もちろん極力余分な被ばくはしない越したことはありませんから、この値を受けて良い、というわけではありません。
そこは間違えないでください。

では、10~2月、どの程度の放射性物質を含む食品であれば許容できるか、ということですが、これはミリシーベルトの値からベクレルを逆算したり、あるいは1日の食品摂取量の内、放射性物質を含む食品の割合など、さまざまな要素を考えなければなりませんが、2年目以降も通じるであろう一つの目安値として、当プロジェクトでは100ベクレル/キログラム(リットル)を提案しています。
これをどう受けとめるか、放射線のリスクに対する各々の考え方になってきますが、現実とリスクのバランスで考えたとき、この値は比較的妥当なところではないか、と考えています。

詳しくは 防護指針 も御参照ください。